ロシアによるクリミア半島侵攻などが影響し、打ち上げを断念した日本初の位置天文観測衛星「Nano―JASMINE(ナノ・ジャスミン)」の実機(フライトモデル)が、水沢星ガ丘町の奥州宇宙遊学館(亀谷收館長)で展示公開されている。同館は、天体の距離や位置を調べる位置天文学の基礎知識、人工衛星に用いられる技術を学べる教材として活用。8月31日まで一般公開するとともに、今月22日には有識者を招いた特別講演会を予定している。
ナノ・ジャスミンは50センチ四方の立方体で重さは35キロ。超小型人工衛星に分類され、10(平成22)年に完成した。
「JASMINE」は位置天文観測計画の愛称で、国立天文台JASMINEプロジェクトが中心となり推進。ガスの影響を受けにくい赤外線を用いて星を観測するのが特徴だ。超小型(ナノ・ジャスミン)、小型(スモール・ジャスミン)、中型(ジャスミン)の3機を順次開発。天の川銀河中心部の構造解明、生命が住める地球型惑星の探査を目指す。
ナノ・ジャスミンは、技術検証目的で最初に製造。ブラジル政府とウクライナ政府が出資するアルカンタラ・サイクロン・スペース社(ASC)によって、11年に打ち上げられる予定だった。
ところが、ブラジル国内で進めていたロケット発射場建設の予算が不足し、打ち上げは延期に。さらに悲運は続き、14年に始まったロシアのクリミア半島侵攻が影響し、ウクライナで実施していたロケット試験も中止に追い込まれた。19年にはASC社が倒産。衛星本体の劣化も進み、打ち上げを断念することになった。
同プロジェクトは、ナノ・ジャスミンで得たノウハウを「スモール・ジャスミン」の開発に反映。国産ロケット「イプシロン」で28年度の打ち上げを目指す。
ジャスミン計画は、同天文台水沢VLBI観測所とも関わりが深い。ナノ・ジャスミンが予定通り打ち上がっていれば、同観測所の口径10メートル電波望遠鏡で観測データを受信するはずだった。
同観測所が運用する天文広域精測望遠鏡(VERA)も、位置天文学を支える重要な観測装置。遊学館では、人工衛星の仕組みや位置天文学の基礎知識を来館者に分かりやすく紹介できるよう、説明内容の工夫や充実に努める考えだ。
今月22日午後2時半からは、国立天文台JASMINEプロジェクト長の郷田直輝教授、東京大学大学院工学系研究科の中須賀真一教授による特別講演を開催する。聴講には遊学館入館料(大人300円、小中高生150円)が必要。
問い合わせは同館(電話24・2020、火曜休館)へ。
写真=宇宙へ行くことがかなわなかった人工衛星「ナノ・ジャスミン」の実機を眺める子どもたち
岩手県奥州市、金ケ崎町の地域紙。第2回ふるさと新聞アワード(2022)グランプリ & Googleアワード受賞。
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